説明
フリージャズ・パーカッショニスト、ピーター・ブルック国際劇団音楽監督、古代音楽(サヌカイト、縄文鼓、銅鐸)など多岐にわたる活動で知られる世界的音楽家、土取利行が瀬戸内海を舞台に古代石サヌカイトを演奏。
地球の生命を育んできた浜辺、産土の地でサヌカイト原石の自然律を紡ぎ出す異能の音楽家の音宇宙を初映像化!
サヌカイト演奏:土取利行
撮影・編集:長岡参
録音:庵谷文博
▼ライナーノーツより抜粋
2022年5月16日午後6時30分、香川県観音寺市有明浜から眺める瀬戸 内海は穏やかな引き潮の海原を乳白色の雲が包み込み、夕陽は雲間に隠れている。潮の引いた渚は干潟が万象を生み、海と空との境がない。
コロナ危機とロシアによるウクライナ侵攻の悲惨極まりないニュース、そして盟友近藤等則や恩師ミルフォード・グレイヴスなどの身近な音楽家との予期しなかった死別があった中、コロナ禍で私自身も多くのアーティスト同様に国内外での演奏活動を絶たれ、厳しい状況に置かれてきた。この逆境の中で何をすべきかと考える中、仲間達の呼びかけもあり、故郷讃岐でのサヌカイト再演の意志を強く抱くようになっていった。1984年の初ライヴ翌年の青野山での演奏、六本木 WAVEでの都市ライヴと、異なる場でサヌカイト演奏を行ないながら、いつか海、浜辺で演 奏したいという思いをずっと持ち続けてきた。
これまではサヌカイトを旧石器時代の石として捉えていたが、今回は視野を地質学へと広げていった。その背景には、以前から啓蒙を受けていた 同郷の解剖学者三木成夫氏や彼が影響を受けたとされるヘッケル、クラー ゲス、そしてゲーテに至る、生命の起源探求に大きな影響を残した科学者 や哲学者の思想があった。
ゲーテは太古の海を「広大な胎内」と呼び、鉱物の誕生進化が生物の誕生進化同様に母なる海から発生していることを示唆している。今回の演奏 場所に選んだ観音寺の有明浜は、悠久の時を経て地殻変動で地表に出てきた花崗岩かが風化してマサ土となり、石英の多い砂土になり、白砂となって 変化を遂げ、美しい海岸の景色を呈する今では希少な場所である。
「数百万年にもおよぶ水辺の生活の中で、いつしか刻み込まれたであろう波打のリズムが、私にはどうしても人間の呼吸のリズムに深いかかわりがあるように思えてならないのです」と三木成夫氏の指摘もある。今回の「浜辺のサヌカイト」では、海と深く繋がっている月による潮汐リズム、それも満月時の潮汐に合わせて夕刻と深夜の二度にわたって演奏した。これまで音だけの記録でCD化してきたサヌカイトの演奏を視覚的にも残しておきたかったのは、以上のような理由による。
【土取利行】
1950年、香川県生まれ。1970年代から、ミルフォード・グレイブス、スティーブ・レイシー、デレク・ベイリーといったフリージャズの演奏家たちと共演を重ねる。1976年、ピーター・ブルックの劇団との仕事をはじめ、以降、『Ubu』『鳥の会議』『マハーバーラタ』『テンペスト』『ハムレットの悲劇』『驚愕の谷』などの音楽を手掛ける。世界中で民族音楽を学び、1980年代に桃山晴衣と岐阜の郡上八幡に拠点「立光学舎」を創立、日本の伝統文化再生にも取り組む。10年以上に渡り、日本音楽の古層を調査し、その成果を『銅鐸』『磬石(サヌカイト)』『縄文鼓』などのCDアルバムとしてリリース。最近では、フランスの洞窟壁画の音楽調査と演奏を行っている他、近代の流行歌の元祖、添田唖蝉坊演歌の研究・継承者としても活躍。