説明
アルバム「スウィング・フロム・パリ」は、現在のマヌーシュ・ジャズの創始者であり、フランス・ジャズ界における2人の天才、ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリへのオマージュである。
ミキ(石内幹子)のヴァイオリンはまさにスウィングし、音楽的に知性と独創性あふれるフレーズを奏でている。その音色は繊細で、しかし力強く、そして楽しげだ。ミキはこのレコーディングの間中ずっと、このスタジオが歩んで来た年月のすべてを吸い込んできたノスタルジックな空気のなかで演奏をしていた。ギタリストのヒューゴ・リッピ、ベーシストのサミュエル・ユベール、ドラマーのブルノ・ヅィエレリらのリズムサポートのクオリティも素晴らしいものであった。ヒューゴ・リッピがソロ即興をはじめた瞬間に、スタジオは力強い雰囲気で満たされた。
今回の録音で客演となったフローリン・ニクレスクとロドルフ・ラファリ(ギター)は、バンドの音楽性にぴたりと寄り添い、レコーディングにおける音楽的貢献を担った。
言うなれば、ケーキを仕上げるアイシングのようなものである。
フローリン・ニクレスク
●曲名(記載されている以外、作曲:Django Reinhardt)
1. Swing 42
2. I can’t give you anything but love(作曲:Jimmy McHugh)
3. Swing from Paris(作曲:Django Reinhardt, Stephane Grappelli)
4. Melodie au crepuscule
5. Djangology
6. Manoir de mes reves
7. Minor Swing(作曲:Django Reinhardt, Stephane Grappelli)
8. Troublant bolero
9. Belleville
10. Nuages
11. Pixie(作曲:Mikiko Ishiuchi)
12. Daphne
member
石内幹子 (Violin)
Hugo Lippi (Guitar)
Rodolphe Raffalli (Guitar)
Samuel Hubert (Bass)
Bruno Ziarelli (Drums)
Florin Niculescu(Violin)3.5.6.9
※ 11曲目、石内の作曲「Pixie」は、前作『Dreaming through Season』にも収録されていた曲です。
それ以外の曲はジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリへの、オマージュとして敬意を表したものです。
石内幹子プロフィール
三重県出身。
ジャズからポップスまで、幅広いジャンルで活躍するヴァイオリニスト。武蔵野音楽大学を卒業後、フランスにてDidier Lockwood氏に師事。作曲、アレンジも自分でこなし、オーケストラ、室内楽、ライブサポートなど、活動の場はますます広がっている。
解説/楽曲解説 河野文彦(一部抜粋)
「6月にフローリンのプロデュースでパリで録音をしてくる。」
こうしてヴァイオリニスト石内幹子がパリのミュージシャン達とともに届けてくれたのが、本作「スウィング・フロム・パリ」だ。
中略
今作の目玉の一つが、ヴァイオリニスト、フローリン・ニクレスク氏のプロデューサーへの起用だろう。ジャンゴの再来と騒がれたロマの天才ギタリスト、ビレリ・ラグレーンのジプシー・プロジェクトへの参加を始め、マヌーシュ界きっての実力派として知られる彼は、自身の活動ではメインストリーム・ジャズや母国ルーマニアのロマ
の伝統音楽、そしてクラシックと、まさにボーダレスな活躍でも知られている。2012年、本アルバムの録音後の7月末から8月にかけて来日を果たし、石内氏とともに日本ツアーをまわったことからも、2人の信頼関係が伺える。石内氏によると、奇跡の泉で有名なルルド近郊の町イボで2010年に開催されたジャンゴ生誕100周年コンサートを見に行った際に半ば偶然にフローリンと出会い、その後も渡仏の度に親交を深めてレッスンを受けたこともあると言う。今回のレコーディング・メンバーもフローリンの人選で、パリの第一線で活躍するミュージシャンが集められている。
特にジャンゴ/グラッペリのナンバーを演奏する際にヴァイオリンと切っても切れない関係にあるギターには、ロドルフ・ラファリとヒューゴ・リッピと言うタイプの異なるギタリストが起用されているのが興味深い。ロドルフは、彼が2001年と2006年に発表したジョルジュ・ブラッサンスの曲のマヌーシュ・ジャズ・カバーアルバムがフランスで爆発的なヒットを記録したコルシカ出身のギタリスト。2007年に来日もしている。対するヒューゴはイギリス出身の俊英で、メインストリーム・ジャズを主戦場にフローリンのサイドを務めることも多く、前述したフローリンの日本ツアーでも一緒に来日している。ベースのサミュエル、ドラムのブルノも普段からフローリンのバックを任されることが多いと知ると、今回の録音メンバーの全容が見えてきた。つまり、フローリン御用達のギタートリオに、マヌーシュ色の濃いロドルフを加えたスペシャル・チームに石内氏を迎え録音されたのが、本アルバムと言うわけだ。数曲においてはそこにフローリン本人も客演していると言うのだから、これはもう、改めて興奮せずにはいられないのである!