説明
切り取られた時代の「一コマ」
ミュージシャン
高柳昌行 (Guiter,effect,etc) Takayanagi Masayuki
ペーター・コヴァルト (Bass) Peter Kowald
翠川敬基 (Cello) Midorokawa Keiki
曲名(時間)
1. 即興と衝突/Encounter and Improvisation (44分)
Recorded at Studio 200 Ikebukuro Tokyo on Apr. 29 1983
Produced by 副島輝人 Teruto Soejima Mobys Record
Executive Producer by 吉田光利 Mitsutoshi Yoshida Chitei Records
Photos by 手島荘子、大高隆 and 南達雄 Tatsuo Minami
切り取られた時代の「一コマ」
3人のミュージシャン、日本のフリージャズ界を牽引する孤高の人・高柳昌行(g)、ドイツアバンギャルドの旗手ペーター・コヴァルト(b)、天衣無縫にして繊細な若手・翠川敬基(vc)が東京でクロスし、そしてまたそれぞれの道へと歩んでいった。その一瞬の営みが、
このCDに記されている。
あの時、つまり今から29年前、1983年という時間と空間、フリージャズを取り巻く状況はどうであり、彼らにとってはどのような位置づけにあったのだろうか。このCDがその一コマを確かな形で切り取っているように思う。
それぞれが互いに音をさぐり合い、内なる深い井戸から絞り出された音を紡ぎ出す。
3人三様の音が波紋を広げ渾然一体となってあふれ出し、また個々の沈黙の世界に立ち戻る。
演奏中にレコードの針のノイズを重ねる高柳。
その遥か向こうに、北海道ソロツアーを経てアクション・ダイレクトへとつながる、終わりのない始まりの道が垣間見えてくる。
アジアの東の果てで、緊張と弛緩の禅問答を楽しんだペーター・コヴァルト。彼はロンドン、ギリシャ、ニューヨークへと、多彩な芸術とのインタープレーを交え、吟遊詩人のように旅立っていった。
そして、挑発的で繊細なパッセージを、弦楽器によるトライアングルの泉に投げかけていた若き翠川。
だだ一人、今も活動している彼は、その後「緑化計画」を立ち上げ、さらに原点となるクラシックとの距離を確認しつつ、新たな地平を模索し続けている。
当日、演奏修了後にアートディレクションを担った副島輝人氏が「今日の演奏はジャズと呼んでいいのでしょうか? それとも…」と、聴衆を前にしてミュージシャンに問いかけていた。
世界を駆け巡ったフリージャズは、境界を取り除き始めていた音楽の大きな渦の中で、
そのパンドラの箱を開け、わりなき産みの苦しみへと突き進むことになっていたとは…。
まさにそうした時代の空気が、このCDに漂っているかのようだ。
玉井新二